書くだけ書いて、

かわなべひろき、石井宏樹、島崎清大、鹿児島のソングライター3人による雑文集

星ー石井宏樹ー

山が稜線を連ねる辺鄙な町の夜と言う奴は、例えば俺、恩を無礼で返すような、下品下劣の権化であるこんな男に対してでさえ、その暗幕に沢山の星を用意してくれる。

市町村合併により町の名称が変わったが、川辺郡坊津町、今で言う、南さつま市坊津町の山奥にある小さな集落で育った俺にとって、皆が当たり前に見るコンクリートのビルや、信号機さえも、小学生高学年になる頃までは馴染みがなかった。大抵の人は少年時代、科学の授業で星座の学習があったと思う。俺は当時、川縁に落ちているシワと砂利にまみれたエロ本に興味が集中しており、思春期産業街道を順調に大驀進していた為、大人になった今、頭上の星の並びを見ても、どの星を結んで星座と呼んでよいのか皆目わからない。だが、県庁所在地近くに生家を構えた家庭で育ち、遊びに行くとなるとゲームセンターにプリクラを撮りに行く、と言った、所謂街っ子の人に比べると、俺は滅法多い個数の星をこの黒目に見てきた、と言う自信がある。

何故今回、俺が星の話を取り出したのかと言うと、理由を言うのは簡単なのだが、ここは一旦想像してほしい。恋仲の相手、意中の相手、つまり大きく括ると異性が「星を見るのが趣味と言うか、いや、趣味ってほどでもないんですけど、夜になるとつい上を見上げて星を眺めてしまうって言うか」みたいな事を何かのきっかけに話し出したとしよう。二割程度、増して清麗清楚な印象を抱かないだろうか。好きな異性が何に興味があるか、と言う部分は価値観に通ずる大切な部分な為「星が好き」と言う内容の話は、清潔感を与えると同時に、ミステリアスな印象をも含んだ、良い距離感を保ちつつ、且つ自分に好意を寄せさすには、非常に良い塩梅の、手軽にお洒落なトピックなのである。

話を戻そう。何故今回、俺が星の話を取り出したのか、と言う話だったが、単刀直入に言う。今回、俺は星の話を取り出して「かっこいい」「頭良さそう」「不思議な人」「もっと知りたい」と思われたかったのである。いや、これでもまだ遠回りな言い方だった。更に端的に言うと「モテたい」と思い、星の話を取り出したのだ。俺はたかがブログにも、モテたい、と言う願望を預けるほどの下品下劣な男である。正直に言おう、星なんてどうでもいい。

石井宏樹 Ishii Kouki

1990年生まれ。鹿児島のソングライター。 自宅で一人、iOS版garage bandで録音した楽曲をサウンドクラウド公開していた所、地元のソングライターに見つかってしまい、外の世界へ引っ張り出されてしまう。2017年1月に初ライブを行って以降は柄にも無く精力的に楽曲制作、ライブ活動を継続し、まんまと今日に至っている。

Twitter: http://twitter.com/ISHII_KGSM